お客様の体調・病気・怪我
参考記事:15. 通訳ガイドの語学力【不測の事態と通訳】
団体旅行は詰め込みで
厳しい時間割の行程が多く、
毎日、かなりの距離を歩きます。
京都では、貸切バスで移動しても、
1日に10キロ歩く日は普通です。
東京でも公共交通利用だと、
距離にして12キロ近く、
2万歩前後歩くのも普通です。
毎日、翌日の行程をお知らせするとき、
お天気、最低気温、最高気温とともに、
歩くキロ数もお知らせすると、
ゲストも心の準備ができます。
キツイ行程でも、
はるばる日本まで来たので最大限見たい!
という気持ちが先に立ち、
多少具合が悪くても隠したり、
自分自身でも気が付かないように
している人もいますが、
お客様の健康は、最優先事項です。
たとえ軽い症状でも、
必ずツアー担当者に連絡します。
普通にしていたと思うのに、
バスの中でカクンと倒れてしまったり、
皆と一緒に食事をしている最中に、
突然、気を失ってしまった人もいます。
ガイドは、いつも、
お客様の健康状態に気を配ります。
- 顔色、血色は良いか、青白くないか
- 元氣よく挨拶ができているか
- 食事をどのくらい食べているか
- だるそうにしてないか
- 脚をひきずったりしていないか
- 疲労感はどうか
ガイドを含め全員が疲労困憊
していることは頻繁にあります。 - 見学中に躓いたりしていないか
- 特に暑い時期は水分を取っているか
上記のうち該当することがあれば、
こっそりとそのゲストのところまで行って、
大丈夫なのか、具合が悪くないか、
お声かけします。
もし、体調不良で、
楽しみにしていた場所を
見られなかったという人が出たら、
その日の行程終了後などに、
スマホやタブレットで
画像や手持資料を見せたりしながら、
少しでいいからお話をして、
疎外感を埋めてあげるのです。
業務としては、
そんなことまでする必要はありませんが、
人情的な問題です。
もし、その人がトラブルメーカーで
迷惑ばかりかける人であったとしても、
それはそれ、体調不良による残念感は、
少しでもカバーしてあげるべきでしょう。
見学の際に不参加者がいる場合、
「減員」することになっています。
とはいえ、参加者は全員の料金を
払っているわけですから、
疲れてバスに残る人がいても、
私はその人の分も支払い、せめて、
チケットとパンフレットをもらい、
その人に渡しています。
ツアーの予算としての問題は、
一切発生しないはずです。
入場券は栞になると喜びますし、
パンフも料金を払って
入場しないともらえません。
念のため、複数の旅行会社の
ツアー担当者に確認したところ、
この措置は問題無しでした。
【絶対に減員する場合】
直前のキャンセルなどで、
来なかった人の分は、必ず減員します、
「いない」のですから当然です。
見学場所については、
必ず坂道・段差・階段などについては
事前にご案内し、
たった1段の段差も、必ず、
「段差がありますよ~!」とお声がけします。
この一言が、怪我回避に繋がります。
ガイドが大声で言っても、
後までは聞こえないので、
後ろの人に伝えてほしいとお願いすれば、
伝言ゲームみたいに、やってくれます。
軽い体調不良
風邪や喉の痛み、腹痛など、
軽い体調不良になる人は、
ツアーの間に、必ずいます。
もし、誰も体調不良にならなければ、
儲けものです。
絶対に、自分の持っている薬をあげたり、
何か特定の薬やサプリメントを
お薦めしてはいけません。
医師でも薬剤師でもない人が、
薬を処方するのは薬機法違反です。
お客様から、
「あなたが持ってる薬でいいから、ください」
と言われてもダメです;
意地悪をしているのではなく、
医師でも薬剤師でもない者が、
勝手に薬を処方することになり
法律違反になるからダメと説明します。
中には、「でも大丈夫だから」
と言ってくる人もいますが、
動じてはいけません。
人の命にかかわることですから、
絶対に違反してはいけません。
まず、いつから、どのように具合が悪いのか、
現状を聞く。
持参した薬があるかどうかを聞き、
それを服用して経過観察できるかどうか、聞く。
お客様が持参した薬で、何とかなるかも
しれないと判断すれば、様子を見る。
お客様が、何の薬も持っていない場合は、
診察を希望するか、
薬局で薬を買って様子を見るか、希望を聞く。
やはり、せっかくの旅行だから、
多少は無理しても観光を続けたいと
思うバイアスがかかって、
症状を軽めに言う可能性があることも
考慮しつつ、話を聞く。
ガイドは、お客様の健康が最優先事項で
あることをお伝えし、できるだけ
病状に即した対応ができるようにします。
病人や怪我人が出たら、
すぐにエージェント担当者に連絡をします。
症状が軽く、ほぼ大丈夫そうならメールで、
重篤な場合や怪我の場合は、
緊急電話で連絡します。
担当者に繋がらなければ、
緊急時対応担当者に状況を説明し、
指示を仰ぎます。
現金の用意
薬局、医院、病院、いずれへ行く場合も、
現金が必要になります。
医院・病院へ行く場合、
外国人は全額自己負担になります。
ゲストの保険
加入している保険でカバーするとしても、
一旦は、全額自己負担することになります。
診断書を書いてもらい、
それをそれぞれの国で法定翻訳して、
加入している保険会社とかけあう
ことになることが多いでしょう。
症状が重篤でない場合は、
診断書料とその法定翻訳料のほうが高額で、
保険料を申請するほうが
割高になってしまうこともあります。
診断書に関しては、ネット検索すれば、
標準的な料金が分かりますが、
法定翻訳料金は、各々の国で、
どれほどかかるかは全く見当がつきません。
まだ、日本では、英語で診断書を
書いてくれる病院はまだ少数ですし、
英語の診断書なら、どの国でも
必ず通用するかどうかも分かりません。
非英語圏のゲストの場合は、
法定翻訳が必要になると考えるほうが無難です。
薬・薬局
ツアー中に薬局へ行くことになる場合は、
バスのドライバー様にお願いして、
最寄りの薬局を探し、
できるだけ近くに停めていただけるよう
お願いします。
ガイドも薬局を探すべきですが、
まぁ、そんな余裕はありませんので、
見学場所の事務局の人にも聞いてみる。
行程の途中に、特定の人を薬局へ
連れていく場合は、
他の皆様には、
「薬局へ行きますので、少し止まります」
などと、軽くアナウンスする程度にします。
言わなくても、当該のお客様がガイドと
バスから降りるので、必然的にバレます。
もちろん、薬局へ寄っても、
ツアー行程に支障が出ないよう、
適宜調整するのも、ガイドの能力。
しかし、そう人が出ると、
他にも、薬局に行きたい希望者が
数名現れる傾向があります。
特に薬が必要なわけでなく、
「薬局を見てみたい」人、
薬局でお買物をしたい人などが、
何人も付いてきます。
そのようになった場合は、
バスから降りる人と人数を把握し、
戻った時には必ず全員の確認をします。
【注意】待機中に、
バスから降りて勝手な行動をする人もいるので、
出発前には、必ず全員揃っているかどうか
確認します(当たり前です)。
薬局へ同行して症状の説明を通訳する。
必ず、今飲んでいる薬について、
アレルギー、禁忌について聞かれます。
同行するとき、辞書があると便利。
スマホに辞書アプリを仕込んでおきましょう。
薬局で対応できない症状
薬局で対応できそうにない場合は、
すぐにエージェント担当者に連絡して、
状況を報告し、指示を仰ぎます。
もし、ガイドが病人に付き添って、
本隊の行程が催行できないとなると大問題。
そこまでの状況になったら、
ガイド独断では判断せず、
必ずエージェントに相談する。
もちろん緊急事態なら、
迷わずに救急車を呼ぶ。
怪我
軽い捻挫など
軽い捻挫くらいなら、
シップして大人しくする程度。
捻挫でも、痛みが激しければ
医師の診断を受けるほうがいい。
ただ、通常、催行中は、
ガイドは本隊を動かすのが基本です。
怪我人の状況次第で、
バスで待ってもらうなどして、
行程を終了し、ホテルに戻ってから、
クリニックなどに連れていく。
いずれの場合も、
必ずツアー担当者に連絡し、指示に従うこと。
それ以外
怪我をした場所は、出血の程度次第では、
迷わず救急隊を呼ぶ場合もあります。
その場合も、当然、
ツアー担当者への連絡は必須です。
しかし、救急車が来たところで、
誰が付き添って行けるのか???
言葉は誰が訳すのか?
診療費の支払用の現金を持っているか?
救急車は外国人を乗せる場合、
通訳者が車に乗ってはじめて、
受け入れ先病院を探し始めるのです、
つまり通訳者が乗らないと動かないのです。
救急車のお世話になる場合は、
いろいろな問題が同時に発生しますので、
必ず旅行社の指示に従い、
ガイドは、逐一様子を報告します。
日中に怪我人・病人が発生した場合
日中に、誰かが怪我をしたり、
予期せぬ病気で救急搬送されれば、
基本は、そのお客様が本隊から
離団して行動することになります。
言語が通じませんから、通訳や、
病院と往復する交通機関(多くはタクシー)、
診察や薬品代は、
日本の健康保険に入っていないので100%、
しかも多くの場合は、
現金で用意しなければなりません。
現金の持ち合わせがないようなら、
ATMへお連れして現金を引き出してもらいます。
大きな病院なら、クレジットカードで
決済可能なところもありますが、
行く病院に事前に問い合わます。
クレジットカード支払いができるタクシーも
増えてはいますが、充分ではありません。
旅行保険に加入していれば、
まずその保険会社に連絡して、指示を仰ぐ。
大抵、一旦立て替えが必要になります。
ガイドはその多くのお手伝い、
通訳、翻訳をすることになります。
こうした事態が夕食後に発生すれば、
ガイドが付き添って、自動的に、
すべてお手伝いをすることになります。
このような非常事態が発生したら、
すぐにエージェント担当者に連絡し、
詳細を連絡・報告し合いながら、指示に従います。
病気
年配者は、たいてい何等かの薬を
持参しており、疲れると、
「バスで休んでいる」と言って
大人しくしてくれますから、
普通は、問題なく過ごせます。
病気関係でクリニックや病院へ
付き添わなければならない場合は、
重篤なケースです。
その情報をツアー担当者へ伝え、
旅行社が最もふさわしいと判断する
病院を探し予約を入れてくれ、
病人とその家族を、
お連れしたことがありました。
救急車を呼ぶと、
どの病院へ行くか分からないので、
症状に最も適した病院を
探してくれたのでした。
このように、救急車を呼べばよい
とも限らないこともあります。
ゲストの中に医師か看護師がいないか聞く
これが、意外といるんですよ。
同国人同士なので、何かと話も早い。
普通は、具合の悪い人がいれば、
ご自身から申し出てくれます。
「せっかくの休暇なので仕事したくない」
という医師もいましたが、例外でしょう。
企業委員会のツアーでは、
産業医もメンバーに入っていたりします。
もちろん、たいへん助かります。
繰り返しますが、病人・怪我人は、
必ず旅行社に報告します。
症状が軽いと思って安心していたら、
あとになってから症状が悪化した、、、
などということになれば、
目も当てられません。
長距離移動:トイレ問題
殆んどの場合、
バスにトイレの設備はありません。
もしトイレ付きのバスにあたっても、
それは非常用と考えることです。
1人が使い出すと、
連鎖反応を起こしてしまいますので、
出来る限り使わないようにご案内をします。
ドライバー様からも、
そのようにお願いされるはずです。
高速道路を移動する場合は、最低でも、
2時間に一度休憩をとりますが、
トイレに行きたくなりそうな
可能性が出た段階で、
早めのお知らせをお願いします。
場所によっては、20分程度走らないと
最寄りのトイレに着かないこともあります。
ロングドライブの時、ドライバー様から、
次はできればドコソコのパーキングまで行きたい、
などと言われることがよくあります。
それは、あくまでも目安、
2時間にならなくても、
1時間半経過したら、
次のパーキングエリアに近づいたら、
寄るべきか・通り過ぎてもイイかを聞きます。
年配者が多いと、
2時間は持たないことのほうが多いです。
地方のな~んにもない下道を移動する場合、
事態はさらに深刻になろいます。
下道移動の場合、SAがないわけですから、
当然、トイレもないからです。
ツアーの行程では、2時間に1度は、
休憩がとれるよう計算されていますが、
お客様の体調が悪いと、
予期せぬタイミングでトイレが
必要になることもあります。
次回は、公共交通機関利用についての注意事項です。
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